聖光園細野診療所

不妊の漢方治療

不妊症に使われる漢方薬は沢山あります。正しい知識に基づき、東洋医学的な診察(脈、舌、お腹の診察)の結果処方されるのが理想的で、また効率的です。私なりの基本的な考え方と、良く使う処方を書いてみます。

漢方の不妊治療に対する基本的な考えは、まずは「体の調子を整えること」です。

その方法には

  • 血の通りを良くする(活血)・・・・体のお掃除
  • 血の質を良くする(養血)
  • 体のエネルギーの通りをよくする(理気)
  • 体にエネルギーを補う(補気・補腎)

などが考えられます。

これらは単独で行うこともあれば、また同時に行う場合もあります。これがいわゆる、「気・血・水」を整えることです。これら治療をどのような順番に行うか、どの組み合わせが良いのかなどを考え、適切に行うことが、漢方薬を使った不妊治療の基本となるのです。

長期の不妊症と精神状態

一般的な傾向ですが、不妊症の方は長期になればなるほど「気滞・気鬱」(きたい・きうつ)傾向が強くなってきます。

気滞・気鬱とは、体の中でエネルギーの巡りが悪くなることです。長期に渡る治療は精神的にも肉体的にも強いダメージを受けます。肉体的なダメージは周囲もある程度理解してくれます。しかし精神的なダメージは周囲の理解も得られないことが多く、長期に渡り繰り返し与えられたダメージが結果として、漢方で言う「気滞・気鬱」を引き起こしてきます。

気滞・気鬱はエネルギー(気)の循環不全状態です。停滞した部分により種々の症状を呈します。

  • 頭部で停滞すれば、抑うつ、頭重感。
  • 咽喉部では、咽のつまり。
  • 胸部では、胸のモヤモヤ感。
  • 季肋部(きろくぶ)では、なにかつっかえる感じ。
  • 腹部では、お腹にガスが溜まって、膨満感などです。

漢方の不妊治療の実際

一般的な治療では、血を補うことを主とし、そこに少し気も補い、さらに理気作用のある生薬を少し加えた漢方処方を続ける例が多いと思います。

例えば良く知られている、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、これは不妊症の漢方治療で用いられる代表的な処方です。というのも、当帰芍薬散は血の質を良くする作用が主で、さらに弱いながらも血の通りも良くしてくれます。また利水作用がある生薬も入っているので、不妊にかかわらず、むくみやすい女性にはピッタリの処方だからです。

これは私もよく使う処方ですが、不妊治療で最初に始める漢方としてはあまり適切ではないと思っています。あくまでも私の個人的な考えですが。

私の場合、当帰芍薬散は第一段階の治療が終わり、次の段階で用いることが多いです。

その時には当帰芍薬散に補気作用のある「人参」を加えエネルギー補給とし、さらにそのエネルギーが上手に使える様に理気作用のある「香附子」(こうぶし)などを加えていきます。血の巡りがまだ悪ければ「紅花」(こうか)などを加えたりもします。聖光園細野診療所の先代の坂口弘はよく当帰芍薬散に血を通す作用のある代表的処方の桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を合わせて使っていました。

不妊症の第一段階の治療は、最初の頃に書いたのですが、補気・補腎などのエネルギー補給になります。しかし現実的には、妊娠を希望される方は若く元気な方が多いので本格的に補気・補腎の必要性がありません。

そのため、実際には、「血の巡り」「血の通り」を良くする処方から開始するケースが大半です。

代表的な処方に、先にも書いた桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)というのがあります。これは不妊治療のみならず、瘀血治療の代表的な漢方処方でもあります。私が良く使うのは通導散(つうどうさん)や駆瘀血丸(くおけつがん)などで、これらは桂枝茯苓丸よりもインパクトを感じて頂けると思います。

まずはこれらの漢方を使って血の通りを良くしなければ、いくら血の質を良くしても漢方の効果を最大限、期待することは出来ないでしょう。

大渋滞路(血の通りが悪い)で、どんなに馬力のある高級車(血の質)を持ってきても、到着時間は自転車とたいして変わらないことがあります。メッセンジャーバイク便(自転車便)を多く見かけるのはそのせいだからです。これを解決するには、まずは道路整備をして、車の流れを良くしなければなりません。

漢方治療でも同様です。まずは血の巡り・通りを良くしてやらなければなりません。これが私のよく言っている「体のお掃除」です。

漢方の不妊治療によく使う処方

不妊症の治療に実際に用いている基本となる主な処方を紹介致します。

下記の漢方薬を基本に、さらに必要に応じて150種類の「単味」と言う生薬エキスの中から必要に応じて薬味を加え、その方の体に細かく合わせたオリジナル処方を調合致します。

これこそ当院の薬が「オーダーメード漢方」と言われている所以です。

主な症状 漢方処方
主に血の巡りの悪い方
(生理痛がひどい、血の塊が出るなど)
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、折衝飲(せっしょういん)、牛膝湯(ごしつとう)、駆瘀血丸(くおけつがん)、通導散(つうどうさん)、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
主に血の質が悪い方
(顔色が悪い、冷える、むくみやすいなど)
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、四物湯(しもつとう)
適宜「紅花」(こうか)などを加える
冷えがさらに強い方 当帰芍薬散合甘草乾姜湯(とうきしゃくやくさんごうかんぞうかんきょうとう)、当帰四逆加三味(とうきしぎゃくかさんみ)、温経湯(うんけいとう)
適宜「附子」「人参」などを加える
ストレスの強い方、
基礎体温で高温期がギザギザな方
逍揺散、正気天香湯、柴芍湯、加味逍揺散(かみしょうようさん)、香蘇散(こうそさん)、人参湯加三味(にんじんとうかさんみ)
適宜「香附子」「木香」などを加える
高温期が上がらない方 家方聖宝湯(かほうせいほうとう)、海馬補腎丸(かいばほじんがん)、六味丸(ろくみがん)、八味丸(はちみがん)
胃腸の弱い方 安中散加茯苓(あんちゅうさんかぶくりょう)、香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう)、六君子湯(りっくんしとう)、人参湯(にんじんとう)、香砂養胃湯(こうしゃよういとう)

Takao Hosono, Tokyo