アトピー性皮膚炎

アトピー性皮膚炎に対する漢方の基本的考え

アトピー性皮膚炎は治りにくい慢性疾患です。現代的な治療は、ステロイド入り軟膏の塗布やプロトピックなどの免疫調整外用薬が主となります。そのため、カラダの免疫力をあげていく漢方薬での治療や、また漢方薬を併用してみたいと希望される方も増えています。
私がアトピー性皮膚炎を治療する際に、最初に観察するポイントをあげます。
アトピー性皮膚炎は、漢方的に分類すると乾燥タイプ、湿潤タイプの二つに大別できます。
これは漢方に限ったことではありません。皮膚がカサカサとして、パラパラと粉をふくタイプが乾燥タイプ。一方、ジクジクと浸出液が出てくるタイプを湿潤タイプと言います。次に、皮膚の赤味が強いタイプか、それとも赤味よりもドス黒くなっているかを観察します。また体が弱っているか、それとも体力があるかも大事なポイントになります。アトピー性皮膚炎に限ったことではないのですが、体が弱っている場合(いわゆる虚証)には、自分の体に病気(アトピー性皮膚炎)を治す力が足りないと考えます。その場合には、同時に体力を補う薬味を加えなければなりません。
アトピー性皮膚炎の方が初めてお見えになった時に、まずは最初にこれらのことを確認して、漢方の処方を考えていきます。

漢方的にみたアトピー性皮膚炎の原因

アトピー性皮膚炎の原因には、先天的な遺伝的素因によるものがまずは考えられますが、ここでは漢方的に考えてみます。
漢方の視点から、第一に考えられるのは、先天的な「気」(エネルギー)の不足によるものです。
子供のアトピー性皮膚炎を考えてみて下さい。乳幼児の時期は体も弱く、「気」が足りない状態のため、アトピー性皮膚炎がなかなか治りません。しかし小学生に入る頃には体もしっかりと出来きて「気」を外部より充分に補充できる様になり、アトピー性皮膚炎を押さえ込めるエネルギー(気)が自然と増えてきます。
「ウチの子のアトピーは小学校に入った頃に良くなった」、と言うのは漢方的に考えるとこの様な理由によります。私も小学校に入った頃には漢方のおかげもあり、体ができてきて喘息やアトピー性皮膚炎がよくなりました。しかし、今後年を取るにつれ体内の「気」は減少していきますから、漢方を服用して少しでも「気」の衰えを遅らせねばなりません。「気」の衰えはアトピー性皮膚炎のみならず種々の疾患をもたらすので注意が必要です。
次に、後天的な「気」の不足によるものが考えられます。
つまり脾胃の働きが虚弱なために、外部より「気」の補給が上手くできず、その結果、全身への「血」や「水」の運行が悪くなるために発症するものです。簡単に言えば、食事の食べる量が少なかったり、また消化・吸収に問題があるために、上手にエネルギーを作れない状態と考えて下さい。現代医学的には、アトピー性皮膚炎の外因として、花粉やハウスダスト、高温・多湿、紫外線など、さらには、不摂生や生活環境、細菌感染まで種々考えられます。これも全て漢方的に六淫(風・寒・暑・湿・熱・燥邪)などにあてはめて考えることができます。
アトピー性皮膚炎は「気、血、水」や「六淫」などにあてはめて考えることができる、と言うことは、それに対しての漢方的治療が可能なのです。
少なくとも、これらのことを考慮した上での漢方処方は想像以上に効果があります。これらのことを考えずに処方された漢方は当たるも八卦、当たらぬも八卦と言えるでしょう。

アトピー治療、まずは生活習慣の改善

漢方治療も、通常の西洋薬(ステロイドや保湿剤、プロトピック)を使った治療も、生活習慣の改善はアトピーの改善のためには、基本になります。

これが無理ならばアトピーの漢方治療はまず無理だと思います。いくら体に合わせた漢方薬を服用しても、悪い食事や悪い生活習慣を続けるのならば、絶対に良くはなりません。私は患者さんに必ず最初にお話しします。
「食事や生活を改善出来ないのならば、漢方をはじめてもお金の無駄ですよ。」
過去に2人の方(男性)が自分には無理とそのまま帰られました。漢方でもステロイドでも、自分の生活スタイルに合った治療方法を選択するのが肝心でしょう。生活習慣の改善と言っても、あまり無茶をしない、タバコを吸う方は本数を減らす、または止める、皮膚が感染しないように清潔にしておく・・・など普通のことです。この先長い病気ですので、タバコを吸うなとは言いませんし、お酒も飲むなとは言いません。「あの医者が言ってたから、今夜はもうこれで帰ろう。」とほんの少し気にとめて頂ければ結構です。
食生活の注意点は、脂物や白砂糖を使ったお菓子、生クリームなどを控える、などですが、これはみなさん注意されています。意外に「えっ?」と言われる方が多いのですが、餅米なども良くありません。餅米にはヒスタミン分泌を亢進させる作用がありますので、アトピー性皮膚炎などは悪化します。ですからお餅だけではなく、煎餅も要注意です。
私が診ている患者さんでも、クリスマスでケーキを食べて悪化、正月に餅を食べてアトピーが悪化・・・する方は多いです。でも、それらも生きていく上での大切な楽しみの一つなので、少しずつ気を付けていけばよいのではないでしょうか。生活習慣の改善はあくまでも無理しない範囲で、ストレスにならない程度から徐々に改善していけばよいと思います。

アトピー性皮膚炎の漢方治療・その1

漢方治療は個人、個人に合わせておこないます。ですから、同じ病気であっても、AさんとBさんの処方が同じことまずはありません。
アトピー性皮膚炎の場合、今まで書いてきた述べてきたように、「乾燥タイプかジクジクタイプか」、「『気』は足りているのか、回っているのか」、「『血』の流れは良いのか」、などに注意して考えて漢方の処方を決めていきます。
ジクジクタイプのアトピー性皮膚炎では消風散(しょうふうさん)、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)、竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)などが、よく用いられる代表的な漢方処方です。特に「消風散は夏に増悪するものによい。」と本にも記載されています。消風散は分泌物が多く、皮膚表面にカサブタが出来てしまう様なタイプによく使います。消風散は発表力が強いので、効果を表す時には一時的に分泌物が増えることがあります。悪化したか好転反応と考えるかは医師の見極め力だと思います。越婢加朮湯は消風散よりも、皮膚がパンパンに腫れて、いかにも皮下に水が溜まっている様に見えるタイプのアトピーに効果があります。
一方、ドライタイプのアトピー性皮膚炎の代表は、なんと言っても温清飲(うんせいいん)でしょう。
温清飲は不思議な処方で、熱性の四物湯(しもつとう)冷性の黄連解毒湯(おうれんげどくとう)の一対一の合方になります。言ってみれば、熱いご飯に冷たいお茶をかけた様なものです。
四物湯は「血」の質や「血」の巡りを改善します。漢方では、皮膚の乾燥や赤黒いのは「血」の巡りや質が悪いと考えますから、四物湯は是非とも使いたい処方です。しかし単独でアトピー性皮膚炎の様な熱を呈している状態に使うと、さらに赤味が酷くなったり、痒みが酷くなったりします。そこでその熱を冷ましてくれる黄連解毒湯を加わえるのです。もちろんこれは四物湯の温性作用を緩和するだけではなく、アトピー性皮膚炎自身の熱をも冷ましてくれます。
よくアトピー性皮膚炎で使われる荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)や柴胡清肝散(さいこせいかんさん)などは、その構成成分に温清飲を含んでいます。すなわち、「温清飲プラス何種類かの生薬」で構成されています。このことより、四物湯や黄連解毒湯、さらには温清飲がアトピー性皮膚炎の漢方治療の中心になっていることが分かると思います。

アトピー性皮膚炎の漢方治療・その2

上述した基本を踏まえた上で、私の治療方針をお話します。
例えば、乾燥タイプのアトピー性皮膚炎の患者さんで、顔も含めて真っ赤になって、しかも皮膚は粉をふいている状態の方は多いと思いのですが、この様な場合は、温清飲から処方するのが基本かもしれませんが、私は違います。
温清飲の場合は、黄連解毒湯が入っているにもかかわらず痒みが増すことが多いのです。これは一時的な場合とそうでない場合があるのですが、患者さんにしてみれば、「飲んで悪くなった」としか思えません。
そこで温清飲の変法を用います。四物湯0.5gに黄連解毒湯1.0g(以上1回量)のように四物湯を少し減らします。さらに熱が強いのならば、石膏を加え、痒みが強いのならば苦参を加えたりします。引っ掻き傷が多く、細菌が悪化要因と思えば、さらに金銀花や荊芥連翹粒を加えてもよいでしょう。またのぼせが強いのならば桂枝・・・と症状に合わせて細かく作っていきます。
私がよく使うパターンで多いのは、四物湯、黄連解毒湯、温清飲、桂枝、人参の組み合わせです。先にも書きましたが、桂枝はのぼせを抑えてくれます。顔の赤味を少しでもおさえてあげることは、患者さんにとって大切なことではないでしょうか。四物湯には地黄という胃に堪えるものが入っているので、人参を加え胃腸障害を併発を抑えます。また長期に渡るアトピー治療で体力が落ちている場合、体を補う意味もあります。後天的な気の不足で、治る力も足りないと考えられるからです。

女性のアトピー性皮膚炎・生理との関係

アトピー性皮膚炎でお見えになる患者さんは、圧倒的に女性が多いです。
男性の場合は「気にはなるが放置」、あるいは、「ステロイド軟膏を塗ってよくなるならばそれでいい!」と思っておられるケースが多いように感じられます。女性の場合は終わりの見えないステロイド治療に不安を感じたり、さらには、肌を綺麗にしたい気持ちが男性より強く、漢方を希望される方が多いのではないでしょうか。
多くの女性のアトピー患者様を診てきましたが、生理周期で症状の変化が出る方はが多いです。たいていは排卵過ぎ頃より悪化し、生理が始まるとアトピー性皮膚炎が少し治まる。この様な方は生理痛が酷かったり、生理不順であったり、また生理時にレバーの様な血の塊が出たり、いわゆる「お血」症状を呈していることが多く見られます。この様な場合には、生理に関する症状を先に治せばアトピー性皮膚炎も改善することがあります。実際に保険診療ではアトピーに桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)などを使う場合もあります。「お血」を改善するだけで、アトピーの症状が意外にも改善されることも多いのです。
実際に、通常アトピー性皮膚炎に使う漢方以外(血の通りを良くする物)から治療を開始することもよくあります。具体的処方名では、通導散(つうどうさん)、駆瘀血丸(くおけつがん)、加味承気湯(かみじょうきとう、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)などを基本にし、そこにヨクイニンや荊芥連𧄍粒(けいがいれんぎょうりゅう)などを加えて、その方のオリジナル漢方を組み立てて行きます。

アトピー性皮膚炎・保険診療と自由診療の違い

以前は大学病院で漢方外来を担当しておりました。そこでは全て保険治療でした。ここでは保険と保険外での処方の違いを症例をあげて考えてみましょう。
1)36歳女性 A.Y様(会社員)身体所見では、身長153cm、体重42kg。
アトピーの経過:幼児期よりアトピーがあり、ステロイド外用薬を使っていた。小学校に入るころに改善していたが、大学を卒業する頃から悪化し、現在はステロイド軟膏、プロトピック等を皮膚科より処方されている。一年中よくないが、特に空気が乾燥する季節になると、皮膚がカサカサになり痒みがある。月経周期は28〜30日、排卵7日後頃からアトピーは悪化する。月経痛は初日から2日目にあり、痛み止め(イブ)を服用することもある。足やお腹が冷える。月経頃には便が出にくい。
アトピーは顔、頚部、背部、お腹、腕、脚と全身にあり、痒みが強い。とても乾燥しており、引っ掻くと皮膚が粉の様にパラパラと落ちる。漢方的な診察では、腹診上に右下腹部にお血の強い圧痛を認める。(月経3日前)
保険診療では、腹診上での所見を基に桂枝茯苓丸などの血の流れを良くする薬をまず考えます。これを3〜6ヶ月やってからアトピー性皮膚炎に用いる様な漢方を考えていきます。基本的に血の流れが悪いと、先に何をやってもなかなか効果がありません。その後は温清飲などのパターンになると思います。またややっこしいのですが、月経になる少し前から、桂枝茯苓丸を月経終了まで使い、その他の時期を温清飲などで様子をみる方法もあります。さらには、温清飲を使いながら、便秘がある場合には月経前頃より、夜のみ桃核承気湯のような強めの薬を使う場合もあります。これはいずれも大学病院の漢方外来で保険診療をしていた頃に考えた方法です。
一方、自由診療では、これらを同時に治療することができます。
まずは温清飲を基本に、体にエネルギーを与える意味も含めて人参を加えます。お腹の冷えがある場合、血の巡りの悪さ程度を腹診所見より考え、紅花を少々加えます。
温清飲(あるいは四物湯と黄連解毒湯)+紅花+人参
これが上記症例での私のファーストチョイスになると思います。この処方より治療をスタートし、血の流れが改善できなければ、もう少し強いものを加えたり、熱が取れなければ、苦参(くじん)や石膏(せっこう)を加えたりと、その方に合う様に様子を見ながら順番に作り上げていきます。
少し飲み方が複雑になるのですが、こういう例では月経周期により飲む処方を変えることもあります。その中でも最も簡単なのは、排卵日以降から2週間、それ以外の2週間とザックリ区切って考えることです。これは別の項目で詳しく書きましょう。
アトピー性皮膚炎の治療は、ステロイドやプロトピックを頂点に種々あります。漢方治療を選択するもよし、他の治療を選択するのも悪くはありません。ただ、ステロイドを含めて、どの治療も基本は生活・食生活になりますので、まずはそれを基本に考えてみて下さい。

赤味が強いアトピー性皮膚炎

乾燥タイプのアトピーには一般的に温清飲(うんせいいん)と言う処方がよく用いられます。この温清飲は黄連解毒湯をベースに構成され、皮膚の乾燥が改善される様な生薬が加えられているのです。
皮膚の乾燥を改善するには、皮膚の血の巡りを改善しなければなりません。しかし、それは時として皮膚の赤味を増してしまうことにもなります。赤味が強い時に入浴して暖まり血行が良くなると、より赤味が悪化することでも分かるでしょう。この同じことが漢方治療でもおこることがあります。
ですから、赤くて乾燥が強いタイプの方に最初から温清飲を使うと一週間もしないうちにより悪化する場合があります。漢方治療を始めて、一時的とは言え悪化するのは気分が良いものではないでしょうし、不安感が増しストレスにもなるでしょう。
ですから、私はまずは治療の第一段階として黄連解毒湯と言う冷やす処方を基本として組み立てます。

月経周期との関係

効果のある場合には2〜4週程度で体感されると思います。一ヶ月様子を見ても改善傾向にない場合には、生薬の追加や基本方針の変更が必要でしょう。
女性の場合には月経前(高温期後半)に悪化することが多いので、再診時が月経前等であれば見た感じでは、皮膚の状態が悪化していることがあります。ですから、効果判定は月経周期の同じ頃(初診が7日目であれば、次周期の7日目)に行うのが一番分かりやすいのではないかと思います。
初診が月経14日目、再診が2週間後の月経直前の場合、「少し悪くなっていませんか?」と思うことがあります。
ところが患者さま本人の感覚では、「月経前にはいつもブワァ〜っと悪くなるのですが、今回はそれほど悪くなくこの程度で済んでいます。」とおっしゃる方が多いのです。
アトピー性皮膚炎の治療はご自身の感覚・体感がとても重要になってきます。簡単で結構ですので、手帳に記録をつけておかれるととても参考になると思います。

東京診療所 細野孝郎 院長
筆者 細野孝郎 (Takao Hosono) 院長 (東京診療所)
昭和63年北里大学医学部卒 日本東洋医学会認定医・日本臨床抗老化医学会名誉認定医
川崎市立井田病院、藤枝市立志太病院、北里大学病院などを経て現在に至る。
北里大学病院では、膠原病・リウマチ・アレルギー外来を経て、漢方外来設立に尽力、担当。
1992年より当院でも診療を開始。
得意分野:内科系疾患全般、月経困難症や不妊などの婦人科疾患、皮膚疾患。また、体質改善や健康維持など、いわゆる抗老化・若返りの漢方にも力を入れている。
趣味:猫、ランニング、フルマラソン(東京マラソン4回、2013年シカゴ)、自転車など。


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