不妊から自然妊娠と出産-症例2

1年間の不妊期間を経て、漢方治療での妊娠を希望され来院、その結果、自然妊娠・出産に至った一例。(36歳 女性 自然妊娠)

経過

1年程前より挙児希望され、半年前より婦人科にてタイミング指導をされている。卵管造影やホルモン検査等は全て異常所見なし。年齢的にも体外受精へのステップアップも考えているが、その前に漢方での自然妊娠を希望し2010年10月当院初診。

来院時所見

月経周期は30日と順調だが、月経痛あり。また腰部に冷えを自覚する。基礎体温表は高温期がギザギザしており一定していない。また低温期から高温期への移行に日数を要する。腹診所見では腹部全体の強い膨満を認めた。便通は1〜2日に1行。自覚的にも常に腹部の張りを感じる。

治療経過

初診時 10月7日:月経周期30日

初診時は月経直前でもあったので、腹部の張りが特徴的でした。この様な場合は、腸管の動きが悪いのですが、それと同時に子宮卵巣系の血流も悪いために妊娠しにくい体と考えます。よって強めの駆瘀血剤であり、さらに腹部の「気」の流れも同時に改善する通導散を第一選択としました。これで少しでも変化が認められれば、通導散を基本処方として、その後に生薬を加えて、この方に合わせたオリジナルな漢方処方を作る予定です。

2回目の診察 10月21日:月経周期7日

36日周期で月経がきました。通導散の副作用か少しだけお通じがゆるくなりましたが、不快感はないとのことでしたので、そのまま通導散を継続としました。月経周期の7日目ということもあるのか、腹診所見では腹部の張りは2週間でかなり改善された感じでした。

6回目の診察 12月16日:月経周期1日

順調に経過していましたが、12月に入ってから暴飲暴食もたたり体重が2.5キロ増えてしまいました。と同時に再び腹部の強い膨満感を自覚されました。通導散を服用中であるにもかかわらず、腹診所見上も初診時に近い張りを認めたため、通導散よりさらに強い桃核承気湯を基本に大柴胡湯を加えた処方に変更しました。桃核承気湯は非常に強い駆瘀血剤で、処方量が多いと腹痛・下痢になってしまいます。そのために1回量0.5gとほんの僅かしか使いませんでした。

7回目の診察 12月28日:月経周期13日

桃核承気湯0.5gで腹痛・下痢が強く生活にも支障を来すとのことでした。こういう場合は無理に服用すると逆に体調を悪くしてしまいますので、この方の様に途中で電話でお問い合わせ頂くなりして中止して頂いた方がよろしいです。しかし悪いことばかりではなく、お腹はかなり動いて膨満感は半分程度まで改善されました。ここで副作用で服用できなかった分を以前の通導散に交換しました。

8回目の診察 1月13日:月経周期29日

腹診所見上はまだ少し張りがあるのですが、自覚的には随分と楽になってきたとのことです。ここで通導散にもう少し腹部の気滞を改善する青皮を少々加えて、通導散加青皮にしてみました。

今月末にYクリニックの体外受精説明会に行く予定です。

9回目の診察 1月29日:月経周期14日

腹診所見上は相変わらず張っています。通導散も3ヶ月使っていますので、ここで少し気分転換も兼ねて加味承気湯を基本処方として使ってみることにしました。これに青皮、枳実を少し加えてみました。

また不妊の鍼灸治療を御希望されて、本日より併せて鍼灸治療も開始となりました。

11回目の診察 2月25日:月経周期16日

腹部の張りが随分と改善してきました。自覚的にもかなり改善しているとのことです。となるとあまり強い処方を続けるよりも少し優しくした方が良いので、基本処方を桂枝茯苓丸に変更し、季節的にも体を温める乾姜を多めに加え、腹部の気の流れを整える青皮、厚朴を加えて、桂枝茯苓丸加乾姜青皮厚朴としました。

12回目の診察 3月3日:月経周期22日

腹部の張りは消失、見た目も下腹部がへっこんできました。血の巡り、気の巡りとも良く、瘀血は改善されてきていると判断しました。処方は変更なく同じとしました。

13回目の診察 3月29日:妊娠5週半

3月21日に尿検査で妊娠反応陽性、自然妊娠でした。思った以上に早い妊娠でした。予定日は11月18日です。ここで妊婦さんの基本処方の当帰芍薬散に変更します。

14回目の診察 4月7日:妊娠7週

心拍も確認できて経過は順調。つわりもありません。今までは比較的に消化管も動きが良くなる系統の処方を使っていたので、当帰芍薬散に変更して便秘が心配でしたが、何とか大丈夫とのことでした。腹部の張りもありません。当帰芍薬散のままで継続です。

16回目の診察 5月19日:妊娠13週

食後や歯磨き後に少し胃部の不快感があるそうですが、経過は順調。お通じは1日おきに出ているとのことでした。便秘がひどければ少々下剤を使わねばなりませんが、ここは同じく当帰芍薬散です。

17回目の診察 6月16日:妊娠17週

2回連続で尿糖が出てしまいました。尿蛋白や浮腫、血圧などは問題なし。お通じはほぼ毎日出ています。体重は元の1キロ増範囲内でした。変更なく当帰芍薬散を継続としました。

20回目の診察 9月13日:妊娠30週

出産2ヶ月前、最後の受診となりました。経過は順調なので 当帰芍薬散のままで生まれるまで継続することにしました。

その後、11月18日に男児を無事に出産されました。

まとめ

この方の様にお腹が張っているパターンは、単に消化管の動きが悪いだけでなく、併せて子宮卵巣系の血の巡りが悪いことが多いです。不妊でお悩みの方に良くある例でしょう。この様な場合には、お腹の張りの消失が妊娠への一つのステップとなります。この例では通導散という比較的強い処方を単独で治療の導入として用いました。当時は通導散を多くの例で処方していました。今考えるともう少し温める系統の処方でも良かったのではないかと思います。ただ結果としては、腹部の張りが取れてきた頃に妊娠されていますので、良かったのではないかとも思います。またこの例では途中で桃核承気湯と言う強い処方を使って下痢になってしまいました。下痢の副作用が出るのは好ましくありませんので中止は正しい判断です、しかしこれで腹部の巡りが一気に良くなったとも考えられます。このあたりのサジ加減はとても難しく微妙なもので、細心の注意と経験が必要とされるでしょう。

この方は漢方開始後5ヶ月程度で妊娠されています。平均的な自然妊娠までの期間は1年以上は必要とお話していますが、この様に比較的早くに妊娠される方も珍しくはありません。ただ大多数の方でも治療をして行く中で、体調の変化を自覚するのはこの方の様にそんなに時間はかからないでしょう。

» 「不妊 不妊症の漢方治療」に関する記事はこちら
» 「自然妊娠を目指そう!」に関する記事はこちら

東京診療所 細野孝郎 院長
筆者 細野孝郎 (Takao Hosono) 院長 (東京診療所)
昭和63年北里大学医学部卒 日本東洋医学会認定医・日本臨床抗老化医学会名誉認定医
川崎市立井田病院、藤枝市立志太病院、北里大学病院などを経て現在に至る。
北里大学病院では、膠原病・リウマチ・アレルギー外来を経て、漢方外来設立に尽力、担当。
1992年より当院でも診療を開始。
得意分野:内科系疾患全般、月経困難症や不妊などの婦人科疾患、皮膚疾患。また、体質改善や健康維持など、加齢にともなうエイジングケアの漢方にも力を入れている。
趣味:猫、ランニング、フルマラソン(東京マラソン4回、2013年シカゴ)、自転車など。

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