熱中症・夏ばての症例

小柄で痩身の初老婦人の例

今から三十年ほど前。蒸し暑くなってきた七月のある日、Mさんが大阪診療所に診療を受けに来られました。「私は元来胃腸が弱く、食が細い方です。夏ばてがひどく蒸し暑くなると極端に食欲がなくなり、今にも命が途絶えてしまうのではないかと不安になっています。毎年梅雨頃から夏ばてになり秋の涼しくなるまでは殆ど寝て暮らしています。長らく近医、大学病院と罹っていますが、一向に良くなりません。今年も夏に入り、食欲が全くなくなりました。かろうじて粥を啜っています。体がだるくてだるくて、このままでは夏を越すことが出来ないように思います。先生!助けてください!」とすがりつかれました。
身長153cm、体重33kg、小柄で骨と皮だけの痩身の老婦人、64歳の年齢にしては老けて70過ぎに見えました。唇蒼白で、顔色も血色がなく蒼白でした。目には力がありませんでした。痩せているので脈は大きく触れましたが力のない弱い脈でした。腹壁も薄くて軟弱、みぞおちを手で揺するとジャブジャブと胃の中に水が停滞している音がしました。食べた粥がすぐに消化されずに何時までも胃にたまっているためでしょう。腹壁が薄いので腸管の動きが手に触れました。臍の周辺に抵抗と圧痛がありました。脚は冷えて冷たく、睡眠はやや不良、時々便秘をするということでした。尿の出は普通でした。
消化器が虚弱な人の中暑病(夏ばて)と診断しました。内外傷弁清暑益気湯を処方し、足三里に灸をすえました。
Mさんは「良いお薬を頂戴しました。薬がよく効きますように。そして私が元気になりますように。」と毎日仏様にお祈りし感謝を捧げながら薬を服用しました。経過はとても順調で食欲は次第に改善し、二週間後には普通の米飯を食べられるようになりました。食欲の改善と共に倦怠感や疲労感も改善し、夏を無事過ごすことが出来ました。

夏ばての患者さんは毎年何例か治療しますが、Mさんが特に強く印象に残っています。Mさんは私たちに大切なことを教えて下さいました。薬を服用する時は神様や仏様に感謝して服用すると効果が更に高くなるということです。「薬が本当に効くのだろうか?」とか「副作用が出たりしないだろうか?」などとマイナス思考しながら服用すると効く薬も効きが悪くなります。Mさんを見習い仏様に感謝を捧げながら薬を服用しますと効果は本当に倍加すると思います。

大阪診療所 中田敬吾 理事長
筆者 中田敬吾 (Keigo Nakata) 理事長 (大阪診療所)
昭和45年 京都大学医学部卒。昭和47年当院にて診療開始。
日本東洋医学会評議員。故細野史郎(聖光園細野診療所、創設者)・故坂口弘に師事。
昭和40年前半、学園紛争で大学内が荒れ果てていた頃、聖光園を知り、坂口弘先生について漢方の勉強を始める。京大病院内科で研修終了後、迷わず聖光園に入所し、漢方臨床研究に入る。昭和50年京都大学大学院に入学、胆道系の自律神経支配とプロスタグランディンの研究で医学博士号を受ける。
長年、日本東洋医学会関西支部支部長を務め、東洋医学会の指導的役割を果たしてきている。また、漢薬原料調査委員会においても委員長を務め、絶滅の危惧のある良質の生薬の保存に力を注いでいる。
京大柔道部OB(柔道4段)

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