女性の漢方1(不妊治療)

女性の漢方を考えるときに、不妊治療は基本治療と考えて良いと思います。「不妊治療」とは「妊娠できる体作り」つまり「女性の基本的な体質改善」と言えます。不妊治療の基本処方は月経痛、月経不順、PMSや子宮筋腫、卵巣嚢腫などで使う処方とほぼ同じです。また、更年期障害などの治療にも応用されます。 今回は女性の治療(更年期障害、月経困難症、不妊など)や体質改善について書きます。

まず、女性の漢方の基本となる不妊治療について説明していきます。

不妊治療について

東京診療所には不妊治療を希望されて初診で来院される方が、年間200名程おられます。そのうち毎年50人程度から、妊娠報告を頂いています。おかげさまで、不妊治療で訪れた方が、その後更年期障害などで再び来院されるなど、不妊に限らず女性の方を数多く診察させて頂いております。妊娠できる体とは、「整ったバランスの良い体」、言い換えれば「体内で赤ちゃんを育てる余裕のある体」です。この余裕ある体作りこそ、不妊治療だけでなく全ての女性の体質改善の根幹となる事でしょう。

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不妊治療で来院される方の傾向

不妊治療で東京診療所を訪れる方で、自然妊娠を希望される方はだいたい30〜35歳前後です。今現在体外受精をされている、またはこれから希望される方は35〜40歳前後が中心となります。いつもおおよその目安として、妊娠までの期間をお話しするのですが、自然妊娠には2つのピークがあります。一つのピークは3ヶ月目程度です。

意外に思われるかも知れませんが、少し漢方で刺激を与えてあげると、3ヶ月程度で妊娠される方がぽつぽつおられます。人数としてはそれほど多くはないので、大きく期待されると困りますが。私の感覚としては1〜2ヶ月に1人いらっしゃるような感じです。ほんの少し血液の流れが改善したため、妊娠に至ったのでしょう。次のピークは1〜2年の間です。

昔は「妊娠するまでは3年は我慢」などと言ったようですが、現代は妊活開始年齢が遅い上に、自然妊娠に無駄に時間をかけるよりはステップアップした方が良いとの考えで、3年も我慢して下さる方はほぼ皆無です。それは東京診療所の患者様も同様の傾向で、1年半過ぎた頃より体外受精にステップアップされる方が大半です。大雑把に言うと自然妊娠希望の方が100人いるとすると、1年治療が続く方が50人、そのうちの半分の25人が自然妊娠すると言う感じです。
治療を続けるのはとても忍耐がいることですし、始めたのであればある程度続ける、途中で止めるならば最初からやらない、漢方以外の他の方法を考える位の覚悟が必要ではないかと思います。

体外受精の場合の目安は、だいたい半年から1年程度になります。1年程度で治療を続けて頂いた方の半分程度が妊娠されます。但し1年を超えると40歳以上の方は諦めてしまう場合も多いのですが、これは妊娠できる確率から考えてもいたしかたないかと思います。

体外受精の治療をしばらくの期間休んで、その間に漢方で体調を整えてから再度体外に挑戦したいと言う方もおられます。こういう方で漢方を始めて、自然妊娠した方が昨年は3名もおられました。通常、自然妊娠をしないので体外受精にステップアップし、さらに何度か体外受精を繰り返して妊娠できなかった人が自然妊娠するなどとは考えられないかと思います。そういうことも起こってしまうのが漢方治療の不思議の一つでしょうか。

また自然妊娠の過去最高齢は43歳、体外受精の妊娠最高齢が47歳でした。このようなこともありますので、早々に諦めるのではなく、まずは1年間漢方をやってみるのは良いことだと思っています。

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不妊治療の方向性

多くの方が疑問に思われ質問されることに、「今は自然妊娠を希望しているのですが、途中から体外受精にステップアップすると今までの治療は無駄になりますか?」と言うことです。治療が無駄になることはありません。自然妊娠も体外受精も治療の導入はまったく同じ、体のバランスを整える治療から入りますので最初は同じ治療(処方)から開始します。ただ体外受精の場合は、採卵、移植などの人工的手技が行われます。それぞれの手技に併せて細かく処方を変更していきます。

もちろん漢方治療でも何の治療であれ、1年間続けるのは大変なことです。ただし、体調の変化や治療の効果を体感できれば、それが励みとなり続けることはそれほど大変ではないでしょう。治療の基本は「女性生殖器系の血の流れを良くする」ことにつきます。これを良くするために、体の気(エネルギー)の流れを整えたり、冷えの原因となる過剰水分の排出を促進(いわゆる水毒の解消)したりするのです。

血の流れを良くする治療は、いわゆる「瘀血の治療」です。つまり全ての女性疾患・体質改善の治療の根幹になります。そしてこの治療は閉経前(月経がある)の方ならば、かなりの確率で、月経時に体感できる治療となります。これらの治療に使う処方は大きく二つのグループに分けることができます。但し、実際にはそのグループ間の処方も多数存在します。いわゆる強いクスリと弱いクスリがあれば、その両者を1:1で混ぜたような物もあれば、0.5:1で混ぜたようなものもあります。言い換えればレベル1からレベル100の間に100段階が存在して、その中でその方に最適なレベルを選択する治療です。保険漢方ではそこまで細かくは選択できませんが、当院ではどの様なレベルの患者様にも最適な処方が選択可能です。

患者様には「北風と太陽」の寓話を例に説明します。旅人のマントを脱がしたい時に強風で吹き飛ばすか、それともぽかぽかと暖めて自発的に脱がすかの話しです。これを治療に当てはめると、強い力で血の流れを改善する(いわゆる強いクスリ、便秘のある人に使いやすい)か、それとも体内を温める(いわゆる優しいクスリ、体の弱く冷えている人に使いやすい)ことにより血の流れを改善するかの違い、とお話しします。

寓話の中では北風はマントを脱がすのに失敗しました。しかし現実には北風が必要な場合もあります。実際の治療では強いクスリも、ほど良い効果が得られます。患者様の体質・タイプにより処方の系統は変える必要があります。通り一辺倒な治療では妊娠できる体作りには至りません。

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東京診療所 細野孝郎 院長
筆者 細野孝郎 (Takao Hosono) 院長 (東京診療所)
昭和63年北里大学医学部卒 日本東洋医学会認定医・日本臨床抗老化医学会名誉認定医
川崎市立井田病院、藤枝市立志太病院、北里大学病院などを経て現在に至る。
北里大学病院では、膠原病・リウマチ・アレルギー外来を経て、漢方外来設立に尽力、担当。
1992年より当院でも診療を開始。
得意分野:内科系疾患全般、月経困難症や不妊などの婦人科疾患、皮膚疾患。また、体質改善や健康維持など、加齢にともなうエイジングケアの漢方にも力を入れている。
趣味:猫、ランニング、フルマラソン(東京マラソン4回、2013年シカゴ)、自転車など。

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