女性の漢方2(体感する治療)

強い薬・優しい薬

まず初めに、強い薬、優しい薬の話しをしておきましょう。強い薬とは何が強いかと言うと、腸も動かしてしまう副作用があることです。ここではあくまでも副作用と言う表現なのですが、この作用を利用して便秘の治療をしたりもします。腸を動かす作用は服用後比較的直ぐに発現します。

だいたい経験上、2日に1行しか便が出ない人はこの程度の処方が良い、4日に1行の人はこの程度の処方が良いと分かっていますので、あまり大きく外すことはありません。毎日便が出る程度の強さで処方を選んで行くのが肝心です。そして毎日便が出る程度の作用がある、つまりその程度まで腸が動いてくれれば血の流れも同様に改善されていると考えます。

私は以前、ステロイドの副作用が出やすい人ほどステロイドの効果(主作用)が期待できると教わり、実際に治療してきた中でもそのことは幾度となく体験してきました。これは漢方治療においても同様で、この種の処方で便の出が良くなった人は主作用の方の効果も得られる確率が高いと実感しています。

ただここで注意しなければいけないのは、月経周期により便の出やすい、出にくいということがあるので、下痢にならない限りは一周期は観察した方が良いでしょう。一番多いパターンは月経前には出にくくなり、月経の初日から3日目までは軟便気味になることです。私はいつも、「飲んでみてお腹が痛くなったり、下痢になるのは薬が強すぎるので無理に飲まないで、ご連絡下さい。少しゆるくなったりお通じの回数が増えるのは許容範囲内ですので続けてみて下さい。」とお伝えしています。

また下痢になるどころか、逆にお腹がはって苦しくなることもあります。これはお腹が動きだしたのに先にお通じが詰まっているために起こる症状ではないかと思います。あくまでも一時的で、服用開始後直ぐにでも出る症状です。この場合は詰まっている物が出てしまえば、後は全く問題なくなる場合がほとんどですので、むしろ良い兆候に捉えてよいでしょう。

また優しい薬でもお腹を温めるのですから、特にお腹を動かしてしまうような成分が含まれていなくてもお腹は動いてお通じの出は良くなります。ただ頑固な便秘が伴う場合はやはり強めの物を選択した方が、結果としてよい感じがあります。実際にはこの両者を混ぜ合わせたり、また両者中間の作用を持つ物を使うことが多いです。強い薬、弱い薬と以前は表現していたのですが、「急ぐから弱いのじゃダメ、強い薬でお願いします!」と言う方もおられて、最近は優しい薬と言う様にしています。

不妊治療の場合は年齢的に時間がない方が大半ですし、若い方でも1月でも早く妊娠したいはずです。ですから私の場合は敢えて強めの処方から入ることが大半です。と言うのも血の巡りを良くすることを重い物を動かすことに例えると、重い物を動かすには最初に力が必要かと思います。いったん動いてしまえば後はそこまで力は必要ない、ということをみなさん経験されているはずです。これは血の巡りも同様で、最初滞っている状態ですから、ある程度強い処方で巡らせて、巡り出すとそこまで強いものは必要ないのではないかと思うからです。

この私の考え方は、基本的な漢方の使い方ではありません。漢方の基本はあくまでも強からず弱からず、体の状態にあったものになります。しかし不妊と言う特殊な状況下では時として、常識外の使い方が功を奏することがあると何度も経験してきました。ただもちろん、これは全員に適応するわけではありません。また強ければ強いほど良い、早く妊娠できると勘違いされる方も中にはおられますが、決してそうではありません。あくまでも程よい程度の物でないと、逆に体のバランスを低下させることになりますので注意が必要です。

体質改善(月経痛)

次に体感出来るのは月経に関係することです。個人差がありますので、もちろん全員が同じ経過を辿ることはないのですが、たいていは服用開始直後あるいは、その次の経血の性状や色調が変わります。サラサラとしたオレンジ色の経血、と表現される方が多いです。また服用後の月経がいつもより何日か早く来たと言うこともあります。後は前出血がなくなり、だらだらと出血していたのが4〜5日でスッキリと終わったとも言われます。 もちろん全員ではありませんが、これらは服用開始後少なくとも3ヶ月程度で体感できるはずです。

また月経痛や月経前症候群の症状は6ヶ月程度を目安に改善してくるでしょう。痛み止めの服用量が減ったり、 場合によっては痛み止めを服用することなく月経が終わる様になります。基礎体温の形が整ってくるのは、これ以降からです。基礎体温の形が良い形になるのには1年程度の時間が必要です。ホルモンバランスが整ってこそ、2層性で高温期、低温期の差がはっきりとして、ギザギザのないスムーズな波形の高温期、などの美しい基礎体温の形になるのです。そうなるとバランスの整った妊娠しやすい体へと体質改善されたと言えるでしょう。

妊娠しにくい体(冷え)

冷えが存在すると、基本的には妊娠しにくい体と言えます。冷えると血の巡りは悪くなりますし、また逆に血の巡りが悪いと体は冷えます。冷えは全身で感じられるのですが、手足などの末端はもちろんのこと、臀部、内腿、背中などでも冷えは感じることがあります。子宮・卵巣系の血の流れの悪い人は下腹部に冷えを感じるのではないかと思いがちですが、実際には下腹部に冷えを感じるよりもむしろ、お尻や内腿、背中などが冷たいと感じるでしょう。これらの部位に冷えを感じる場合は瘀血を疑って見て下さい。

また手足の先に冷えを感じる場合は、直接的な女性生殖器系の血の巡りの悪さの症状ではないのですが、結果として肝心な部分の血流の悪さを表していることも多々あります。手の冷えは不妊治療などをやっていると改善されることが比較的多いのですが、足の冷えは特に冬の季節などは、なかなか改善しにくいのが正直な所です。やはり心臓から遠い、地面に近い、気の回りが悪い(気:エネルギーの回りが悪いと気がなかなか下半身の方に降りていかない)などの要因が重なり、温まりにくいのではないかと思います。

さらに下半身に浮腫のある場合も足先の冷えの原因となります。浮腫とは「水」の循環が悪く体に過剰に蓄えられた状態を指しますが、「水」はお湯ではありませんので、元来冷たいものです。その水が過剰に下半身に蓄えられれば、冷えをもたらします。この冷えが血の巡りの悪さをもたらし妊娠しにくい体にしてしまうのです。この様な場合は最初に水はけを良くし同時に体を少し温める処方から開始すると良いでしょう。

冷えの強い方で、体温が上がらないとおっしゃる方もおられます。基礎体温を毎日記録していれば、全般的に体温が低かったり、高温期が赤い線(基礎体温表の)を超えないと気になるかと思います。この様な方々で漢方治療を開始してしばらくすると、基礎体温の全体的な波形が上昇するということも経験してきました。基礎体温は室温などにも左右されるのできちんと判断して見なければならないのですが、経験上は0.2〜0.3度程度の上昇です。これだけでも体の辛さ、冷えの感じ方などは随分と良くなるそうです。

この様に不妊症の治療とは、浮腫を改善したり、冷えをよくしたり、月経痛などの諸症状を改善していきますので、薬が効いていれば治療の効果を体感できるでしょう。

» 「女性の漢方3(体外受精・不妊治療のその後)」に関する記事はこちら
» 「不妊 不妊症の漢方治療」に関する記事はこちら
» 「不妊治療の漢方薬と鍼灸」に関する記事はこちら
» 「女性に多い体の不調と漢方治療」に関する記事はこちら

東京診療所 細野孝郎 院長
筆者 細野孝郎 (Takao Hosono) 院長 (東京診療所)
昭和63年北里大学医学部卒 日本東洋医学会認定医・日本臨床抗老化医学会名誉認定医
川崎市立井田病院、藤枝市立志太病院、北里大学病院などを経て現在に至る。
北里大学病院では、膠原病・リウマチ・アレルギー外来を経て、漢方外来設立に尽力、担当。
1992年より当院でも診療を開始。
得意分野:内科系疾患全般、月経困難症や不妊などの婦人科疾患、皮膚疾患。また、体質改善や健康維持など、加齢にともなうエイジングケアの漢方にも力を入れている。
趣味:猫、ランニング、フルマラソン(東京マラソン4回、2013年シカゴ)、自転車など。

おすすめコンテンツ