女性と漢方

漢方は女性を特に大切にする医学

一千年余り前の唐の時代に書かれた『千金方(せんきんぽう)』という医学書があります。この書の編集が面白いのです。はじめに女性の治療をもってきて、次いで小児の治療を述べ、最後に成人男性の治療を述べています。何故このように編集したかを序文で触れています。
「人民を健康にするには将来成人となる子供を丈夫にしなければならない。子供を丈夫にするには子どもを産み育てる母親が健康であらねばならない。そのために、この書でははじめに女性の治療を述べ、次いで小児の治療をもってきて成人男子の治療は最後にしたのである。」とのべ、女性を健康にする重要性を述べてこの考えを物事の根本を大切にする「崇本の義」と言っています。
人々を健康にする根本は女性を健康にする事であるというこの考えは現在に於いても通用する素晴らしい考えであると思います。
女性は子どもを産み育てるために一生を通じ大きな身体の変化を経験します。月経の始まり、妊娠と出産、経閉など革命的とも言えるほど、身体の内部の変化があります。この変化の度に女性は病気の危険にさらされます。
昔から「厄年」と言われているのはこうした身体の内部環境が大きく変化する時期と一致しています。その時に無理をして病気にならないようにという、警告の役目を果たしていると考えられます。
漢方は昔から女性のこのような身体の変調期に起きる病気や症状を改善するのに非常に役立っています。

思春期〜妊娠・出産と漢方

女性の10代から30代は初潮を迎え、成熟し、何回かの妊娠と出産を経験します。その後、育児を繰り返し、次第に更年期へと移行して行きます。
健康な女性であればこれらの変化に耐えて行くのは容易でありますが、虚弱体質や内臓に支障がある女性は月経、妊娠、出産など内部環境が激変するときに病気に罹りやすくなります。
冷え症や血の滞り(俗に言う血の道症)などが生じ、月経不順、無月経、月経困難症、不妊症、習慣性流産、不正子宮出血などの原因となります。このような状態を改善する薬は漢方に沢山準備されていますが、その中でも日本で頻用されるのは当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)です。この処方は昔から虚弱な女性のさまざまな治療に使われてきました。
子宮の毛細血管を開いて血行を良くする当帰、皮膚温上焦や末梢血管拡張作用のある川芎、鎮痛・鎮痙作用があり筋肉をリラックスさせる芍薬などが組み合わされており、子宮や卵巣の血流を良くして機能を改善する効果があります。
冷え症を改善し、月経不順、疲れなどにも効果があります。是非知って頂きたいのは、習慣性流産など流産しやすい場合にこの薬を服用すると、ほぼ確実に流産を予防出来ます。更に私の経験から妊娠中に当帰芍薬散を服用しておけば、妊娠期間中のさまざまなトラブルから母体が守られ、お産が軽く安全になると、感じています。安産安胎の貴重な薬と言えます。
西洋医学では妊娠中のトラブル発生を恐れて出来るだけ薬を服用させないようにしています。しかし、漢方では妊娠中に積極的に漢方薬を服用して母体と胎児を安全に保つようにします。最近は特に結婚年齢が高くなり、高齢出産の方が増え、妊娠中のトラブルも生じやすくなっています。このような方には特に、漢方で母子を共に守り、産後の赤ちゃんの発育も正常に保つようにしていただければと思います。
漢方は千年の昔から女性を非常に大切にする医学であることをご理解頂き、女性の方々はご自分の健康増進に漢方を積極的に利用されることをお進めします。

大阪診療所 中田敬吾 理事長
筆者 中田敬吾 (Keigo Nakata) 理事長 (大阪診療所)
昭和45年 京都大学医学部卒。昭和47年当院にて診療開始。
日本東洋医学会評議員。故細野史郎(聖光園細野診療所、創設者)・故坂口弘に師事。
昭和40年前半、学園紛争で大学内が荒れ果てていた頃、聖光園を知り、坂口弘先生について漢方の勉強を始める。京大病院内科で研修終了後、迷わず聖光園に入所し、漢方臨床研究に入る。昭和50年京都大学大学院に入学、胆道系の自律神経支配とプロスタグランディンの研究で医学博士号を受ける。
長年、日本東洋医学会関西支部支部長を務め、東洋医学会の指導的役割を果たしてきている。また、漢薬原料調査委員会においても委員長を務め、絶滅の危惧のある良質の生薬の保存に力を注いでいる。
京大柔道部OB(柔道4段)

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