鬱病を伴う3年間来の不妊での自然妊娠-症例5

鬱病を伴う3年間来の不妊で、9ヶ月の治療により自然妊娠に成功した一例(32歳 女性)

経過

3年前よりメンタルクリニックで抗鬱剤、抗不安剤の投与をされている。同時にその頃より妊娠を希望するも妊娠しないため2014年2月に当院を初診。月経は順調だが、月経痛あり月経初日〜2日目まで市販鎮痛剤を服用。同時に月経前にイライラ、鬱状態、胃の痛み等を自覚。月経周期に関係なく不眠、耳鳴り、めまい等が続いている。月経期間中には手の浮腫みが酷くなる。手足末端の冷え有り。婦人科では内膜症と多嚢胞性卵巣と診断された。

来院時所見

初診時は月経周期10日で、脈診・舌診・腹診では腹力の低下以外には特徴的な所見は認められなかった。基礎体温表の波形にも大きな異常は認められなかった。

治療経過

初診時:2月25日:月経周期10日

メンタル的な既往、腹力の弱さなどより加味逍揺散を基本処方としました。また更に気剤である香附子、少々ふらつき、耳鳴り、めまいの訴えもあり「気」を降ろすために桂枝を加えました。本来ならばこの3者の合方で経過を診るのが良かったのですが、遠方に在住のため次回来院が2ヶ月後とのことで、同時に血流を良くしたく四物湯を加えてみました。結果として、加味逍揺散合四物湯加香附子桂枝と言う処方を組み立ててみました。

2回目の診察:4月5日:月経周期22日

都合がついたために予定より3週間早い来院でした。良く眠れる様になったとのこと。体調は良いとのことで同処方を継続。

3回目の診察:5月10日:月経周期8日

月経痛が少しあった。ただ月経前のイライラは感じなかったとのことです。睡眠は漢方を始めてから良い状態が続いている。少しやる気がおこらないとのこと。同じ処方で継続としました。

4回目の診察:8月8日:月経周期14日

ここのところ少し下痢気味になってきた、お腹の張りが気になるとのこと。前回からの間、漢方がなくなってしまいしばらく休薬状態になっていたら、耳鳴りやめまいが出てきたとのこと。お腹を下したのは加味逍揺散に含まれる牡丹皮桃仁の副作用とも考えられるため、同生薬を含まない逍揺散を選択してみました。加味と付くか付かないかで薬の性格は大きく変わります。今回は加味逍揺散をそのまま逍揺散に置き換えた感じの処方です。

5回目の診察:9月12日:月経周期24日目

今度は少し便秘気味になってしまったとのこと。その他は至って快調とのことで、再び加味逍揺散に戻してみました。

その後、11月13日に電話にて妊娠報告を頂きました。

まとめ

加味逍揺散は「気」と「血」の流れの悪い女性に用いる代表的な処方です。例えばイライラ、不眠、不安感などの自律神経系の症状に月経不順、月経痛などが重なった場合に多く用いられます。ですからこの処方は不妊治療にかかわらず、更年期障害や月経痛まで幅広く用いられる処方です。私はこの処方を用いる方で、めまい、耳鳴り、フラフラ感、頭重感などを更に訴える方は頭部で気が滞っていると考え、桂枝などの生薬を加えて処方します。また香附子を加えることは、気を通す作用が強くなるためこれらの自律神経系の症状には有効かと思います。

逍揺散と加味逍揺散は一見すると同じ処方に見えてしまいます。違いは牡丹皮桃仁の有無で、基本的に上部の症状(頭痛、肩凝り、のぼせ)等があれば加味逍揺散を選択します。ただ牡丹皮桃仁が本例の様に下してしまうことがたまにありますので注意が必要です。

この様に不妊治療ではあっても気や血の流れを整えると、同時に自律神経失調症の様な症状も改善されます。

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東京診療所 細野孝郎 院長
筆者 細野孝郎 (Takao Hosono) 院長 (東京診療所)
昭和63年北里大学医学部卒 日本東洋医学会認定医・日本臨床抗老化医学会名誉認定医
川崎市立井田病院、藤枝市立志太病院、北里大学病院などを経て現在に至る。
北里大学病院では、膠原病・リウマチ・アレルギー外来を経て、漢方外来設立に尽力、担当。
1992年より当院でも診療を開始。
得意分野:内科系疾患全般、月経困難症や不妊などの婦人科疾患、皮膚疾患。また、体質改善や健康維持など、加齢にともなうエイジングケアの漢方にも力を入れている。
趣味:猫、ランニング、フルマラソン(東京マラソン4回、2013年シカゴ)、自転車など。

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