喘息

喘息はたいへん難儀な病気で、経験者でなければ、その苦しみを理解できません。私も幼稚園の頃から15〜16才まで、発作に悩まされた経験者です。中学の入学試験には、医者の父に注射を打ってもらって、出かけました。その後、漢方薬と食養生のおかげで次第に苦しみから解放され、大人になってからは暴飲暴食や、無理をしても発作が起こらなくなりました。

水毒体質と喘息

医学生になり、喘息体験を振り返ってみると、思い当たることがありました。友人と一緒にビールを飲んでも、私だけは少しもトイレに行かないのです。ある時、腎機能検査法の実験の手伝いで、1リットルの水を飲んで排泄した尿量と比重をはかる試験をしました。その結果、他の三人に比べて、私だけ尿量が少なかったのです。飲んだ水はどこに行ってしまったのでしょう?
漢方では、私のように水はけの悪いことを、水毒といいます。この体質を持つ者が、何かの原因で余分な水が肺にたまると、喘息の発作が起きると考えています。
発作の時には、水がたまって細くなった気管の中を空気が出入りするので、ヒィーヒィー、ピーピーと音がします。発作が楽になってくると、沢山の小便が出ます。肺にたまっていた水が、腎臓から排泄されるからです。また、汗が出て楽になることもあります。

水分代謝は脾と腎で

喘息は、水分代謝の異常な体質に関係がありますが、なぜ、うまく水分代謝ができないのでしょうか?現代医学ではまだ研究されていないませんが、漢方の考え方を紹介します。
漢方で水分代謝に関係するものは、脾と腎であると考えています。この脾は西洋医学でいう脾臓ではなく、消化吸収した栄養分を体中に分配する働きをするものとしています。腎も腎臓ではなく、生体に生命現象を維持するための活力を与える作用をしているものと考えます。脾は河川の堤防のようなもので、堤防が弱ければ、水が氾濫して洪水になるように、人体でも脾の働きが良くなければ、水が体の各所にたまると考えられています。この脾の力を強める働きをするのが、腎なのです。
脾と腎の働きがうまくいかない体質の人に、疲労、疾病、低気圧や寒気団、ほこり、臭気などの自然環境のストレスなどにより、肺に水がたまり発作を起こします。喘息治療の要点は、脾と腎の働きを正常にすることにあると言えます。

腎の働きを強くする処方の八味丸

喘息の多くは、幼児期に起こり、思春期になると次第に軽くなり、壮年期には、一度よくなります。ところが老人になるとまた起こってきます。もちろん例外もあります。
腎は生体に活力を与える働きをするものなので、当然、成長にも深く関係します。子供の時には、腎の働きはまだ完全ではなく、思春期から次第に働きが強くなり、壮年では最高。それ以後、年をとるにつれて腎の働きも弱くなります。腎の働きと喘息の起こってくる年代は、よく一致しているのです。
中国では、この点に着目して、腎を強める八味丸で、多くの喘息患者を治したという話があります。

小学校低学年の兄と幼稚園の弟

ある時、小学校低学年の兄と幼稚園の弟の兄弟が来院しました。お兄ちゃんが喘息、弟は健康です。診察までの待ち時間に、ジュースを1本ずつ飲みました。お兄ちゃんのお腹を押さえると、ジャボジャボと音がしますが、弟のほうはどうもありません。お兄ちゃんの場合は、飲んだジュースの消化が遅く、胃にたまっていて音がしたのです。漢方ではこの状態を脾が弱いと診断します。
また、この兄弟は、弟は白く澄んだ皮膚をしていますが、兄の方は、皮膚の色がどす黒く、垢がついているように見えます。そのうえ、のどにタンがたまり、よく咳払いをします。これらの現象は腎が弱いために出てくるのです。

発作が起こった時の漢方処方

いったん、喘息の発作が起こったら、肺の病変が主体ですから、脾や腎の薬では間に合いません。気管の痙攣をとる薬とか、炎症をとる薬とか、肺に効く薬を入れた処方を用います。よく使われるのが麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)と小青竜湯(しょうせいりゅうとう)です。
どちらも麻黄(まおう)という生薬が中心になっていますが、これが気管の痙攣を抑える働きがあります。西洋医学で発作止めに使うエフェドリンは麻黄から抽出されたものです。

発作が強くタンが少ないセキの時

やや発作が強く、タンの少ないセキがひどい場合に、麻杏甘石湯を用います。子供の場合は、タンを出す桑白皮(そうはくひ)を加えて用います。発作が長引くと、タンがねばって切れにくくなりますが、その際は、括呂根(かろうこん)、麦門冬(ばくもんとう)、生姜(しょうきょう)を加えます。

くしゃみ・水洟を伴う発作に

朝方、気温が下がると、くしゃみ、鼻水がひどくなり、発作を起こす人がいます。このような時は、体が冷え切っている状態なので、乾姜(かんきょう)、細辛(さいしん)など、温める薬の入っている小青竜湯を用います。肺の水分を早く排泄する杏仁(きょうにん)を加えたり、発作が強ければ、息苦しさをとる石膏(せっこう)を加えます。この場合には、温暖なところにいけば、発作も楽になります。
いずれにしても、発作が起きてから漢方薬だけで止めるのは、大変です。吸入薬や注射の方が楽ですが、副作用もあります。発作は、起こり始めの軽い間に治すのが一番です。
早めに漢方薬を飲ませるか、夜中に発作が起きる人には、就寝前に漢方薬を服用すると良いでしょう。

精神的要素が強い場合

喘息の発作が「うさ」を発散するのに似ていると考えれば、あわてずに発作がすぎるのを見守ってやるのが一番です。
しかし、多くの親は、あわてふためいて、医者に電話をかけます。すると、患者も不安になり、ますます発作が強まって治りにくくなります。子供の喘息は、時に、親のヒステリーから治す方が早いということもあります。
喘息の状態も一種のヒステリー状態とも考えられるので、神経質で気分に左右されやすく、いつもセキばらいしているような人には、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)を加えて処方すると、良い場合があります。

体力が衰え食欲がない場合

食欲もなく、ちょっと体が疲れるようなことをすると、すぐ発作を起こす人があります。こういう人に、麻黄の入っている薬で、かえって悪くなる場合があります。胃腸の働きを強め、体力をつけながら治す場合には、喘四君子湯(ぜんしくんしとう)を用います。麻黄の入っている処方ほど、即効性はありませんが、だんだんと発作が遠のいていきます。

喘息の交替現象

体の弱い5歳の女の子が喘息の治療で、来院されました。漢方治療を始めて1ヶ月で、ホルモン剤を中止し、半年後には見違えるほど元気になり、発作も軽くなりました。ところが、幼児のころに出ていた、アトピー性皮膚炎が体中にブツブツと出てきました。喘息はよく皮膚炎と交替現象を起こします。皮膚にでてきたのは、良い現象なのです。ここで、あわててホルモン入り軟膏をつけてはいけません。次第に良くなるので、自然にまかせます。この少女は、麻黄入りの薬を時々飲みながら、5年間ほどで良くなりました。

根気と食養生

喘息を根治させるのは、たいへんなことです。完全に発作が起こらなくなってから1年以上、漢方薬を飲んだ方が再発しません。患者さんも医師も根気が必要になります。ここでは、代表的な処方をあげましたが、ほかにもいろいろな処方があります。当院でも30種以上の処方を使って、喘息患者を治療してきました。
食養生も重要なポイントです。脾と腎を弱めない食事を摂るよう、心がける必要があります。胃腸に負担をかける動物性脂肪の多い食事を避ける。果物、甘い物、体を冷やす食物は、腎の働きを妨げるので摂らないこと。他にも注意事項はありますが、この二点は、とくに重要です。
病気に甘えず、必ず治るという信念と、治療、養生への根気と忍耐、担当医師への信頼、これらを持ち続けて、正しい治療法を行えば、必ず苦難を乗り切ることができます。

京都診療所 細野完爾(八郎) 名誉理事長
筆者 細野完爾(八郎) (Kanji(Hachiro) Hosono) 名誉理事長 (京都診療所)
昭和31年 京都府立医科大学卒業 昭和33年3月当院にて勤務開始
幼少のころ、小児喘息にひどく悩まされ、当時父でありまた漢方医でもあった故細野史郎(聖光園細野診療所、創設者)により病を克服する。いつしか父の意志を受け継ぎ、医師としての出発を決意。現在、喘息・アレルギー性疾患等さまざまな病に立ち向かっている。
故細野史郎の長男。

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